■7.「えーっ、宇宙開発なんか、やったことないからできません」
「今度、ロケット作ることにした」と植松さんは、従業員たちに言った。故郷で父親がやっていた植松電機に入り、パワーショベルにつけるマグネットを開発して、売上を伸ばした後である。
皆は「えーっ、宇宙開発なんか、やったことないからできません」という反応だった。これも「どうせ無理」という声である。
そこで植松さんは一人でロケットエンジンを作り始めた。それがやっと動いて、美しい炎と轟音を発した時、彼らは「わっ、ロケットエンジンってつくれるんだ」と知った。自分たちにもできるかもしれない、と取り組み始めたら、たった半年でロケットを作れるようになった。
現在、20人ほどいる従業員のほとんどは大学を出ていない。もとはアメ屋や焼き肉屋でバイトをしていた若者たちだ。そういう人たちが本業の傍らで、今や一生懸命に宇宙開発をしている。最近は国の研究機関の人たちも大勢訪ねてくるが、そういう超エリートたちとも、平然と会議をしている。
また社員たちは分からないことにも挑戦する姿勢を身につけたので、近所の農家の人と一緒に、農業の機械の開発を勝手に始めたりしている。
人間、夢を持てば、それに向かって自然に努力をしてしまう。そして、自分の持つ可能性を押し広げていく。学歴がないから、頭が悪いから、中小企業だから「どうせ無理」という言葉が、その可能性を殺してしまっていたのである。
逆に、成績を良くして一流企業さえに入れば、という形で、子どもの頃の夢や憧れをつぶしてしまう事が、飛行機の設計をしながら、飛行場に行ってもわくわくしない指示待ち族を作り出す。
■8.「植松電機に行ってから、何でもできるようになりました」
植松さんは、子どもたちのためにロケット教室を開いている。わずかな火薬で、高度100メートルまで飛んでいく。点火は電線を接続して、子供たちが自分の手で制御装置を操作して飛ばす。
海外製の教材なので説明書は英語だが、植松さんはロケットの作り方を詳しく説明したりはしない。失敗しそうになったときだけ助け船を出す。それでも子どもたちは、自分が作ったロケットがものすごい勢いで飛ぶんだよ、と教えられると、英語の説明書をなんとか読み解いて、作ってしまう。
他の子のロケットが飛んでいくのを見て、不安に負けて「どうせ僕のはダメだろう」などと、つぶやく子もいるが、その子のロケットが飛び出して、パラシュートを開いて戻ってくると、「どうせ無理」というあきらめを克服することができる。
ある幼稚園の子どもが、ただたどしい字で「植松電機に行ってから、何でもできるようになりました」と感想文を書いてくれた事が、植松さんは嬉しくてたまらなかったという。幼稚園児の「何でも」だから、たかが知れているだろうが、何でもあきらめずにやってみよう、という気持ちで、周囲のいろいろな事にチャレンジしているのだろう。
こうして自信を持った子供たちは、自然に周囲の友達にも優しくなる、という。自分に自信のある人は、他人に対して「どうせ無理」などという冷たい言葉は吐かない。
■9.国家の総力は、そこに暮らす人々の未来の可能性の総和
今までの我が国では、一流企業、一流官庁に入るために「一流校にさえ行けば」と子どもたちを叱咤してきた。その過程で子供らしい夢や憧れを、「そんな事でいいのか」と押し潰してきた。
逆に、進学から落ちこぼれた子どもたちの夢は、成績が悪ければ、「どうせ無理」という言葉で、これまた押し潰してきた。
その結果、我が国は経済大国にはなったが、夢を失った国民からは新しい芸術も思想も産業も出てこない。それが現在の我が国が閉塞感に覆われている原因ではないか。
__________
国家の総力は、そこに暮らしている人たちの能力の総和でしかありません。しかも能力の総和というのは過去の業績の総和ではなく、未来の可能性の総和です。
本当の国家の総力というものは、そこに暮らす人たちの優しさと憧れの総和のはずです。だから、優しさと憧れを奪ってはならないんです。[1,p189]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
たった20人の会社が宇宙開発に挑戦している。もっと大きな会社は、もっと大きな、様々な夢を目指していけるはずだ。そうした夢に向けた努力が、我が国の未来の可能性を押し広げていく。